天狗様と身体を共有し始めて二週間が経った。
 相変わらず仲は良くないが、二週間も経てばそれなりに身体は慣れて行くもので。人間の順応性とは恐いものだと俺は思う。

「朝は白米だ」
「煩い、俺はパンが好きなんだ!」

 大学へ向かう道でパンに被りつく俺に、天狗様が言う。

「天狗様はさ、米しか口にしないから頭が難いんだよ」
「天狗様ではない、主はわしの主(あるじ)であろう?わしの名を呼べば良い」
「名前ねぇ…聞いたことねぇや」

 傍から見たら独り言を話している様に見えるだろうが、天狗様は俺の隣にいるわけで。
 あれから親父に聞いて分かったことなのだけど、どうやら天狗様が見えるのは、力を継承した人間だけで、霊力や特別な力を持たない普通の人には見えないらしい。

「わしの名は『泰葉』じゃ、良く覚えて置け、悠斗」
「はいはい、タイハね、タイハ」

 こうして話している今も、俺を不思議そうに見る通行人がいたりして、正直何とかならないかと思う。
 心が読まれるから、頭の中で考えたり話したりしたくはないけれど、流石に毎日変な目で見られるのは困る。

「大学では話し掛けるなよ」

 ちらりと隣を見て言えば、天狗様…いや、泰葉はバス停に並ぶ人を見つめていた。

(何見ているんだよ!?)
 口には出さず頭の中で泰葉に問えば、泰葉は破廉恥だと女子高生を指差した。
 制服に身を包む女子高生の何処が破廉恥なのか聞けば、泰葉は真面目に答えた。