俺様男に心乱れて

「お礼ならもういただきました」

「はあ? 何の事だよ?」

「タクシー代のお釣りでしょ?」

「ああ、あんなのは違うよ。なあ、飯は食ったか?」

「え? 食べてないけど…」

「よし。飯食いに行こう?」

「えー、あまり食欲ないから…」

「そう言わずに付き合ってくれよ。俺の気が済まないから。な? 頼む」

男は顔の前で手を合わせ、拝むような仕種をした。

へー、俺様のくせに、こういう事もするんだ…

それが何だか可笑しくて、

「いいわ。着替えるから待ってて」

と言ってしまった。


急いでトレーナーにジーパンにダウンジャケットという支度に着替え、廊下に出ると、男は今朝のグレーのとは違い、黒っぽいスーツでビシッと決めて立っていた。