俺様男に心乱れて

誰だろう?

どうせ近所の人が回覧板を持って来たとか、宅配便か何かだろうな…

私はドアに顔を寄せ、訪問者に向かって大きな声を出した。

「どなたですか?」

『琢磨でーす』

ほんの一瞬だけど、『え? 琢磨が来たの?』と思ってしまった自分が情けない。

そんな訳ないし、今の声は悔しいけど耳が覚えてしまったあの男の声だ。

「ふざけないで!」

『あ、ばれた? 開けてくれよ』

「何の用ですか?」

『お礼をするって約束したろ?』

「お礼ならもうしてもらったじゃない?」

『え? よく聞こえないぞ』

「今開けるから、大きな声出さないでよ! 近所迷惑だから…」

私はドアチェーンを付けたまま、ロックを解除してドアを少しだけ開けた。

「よお」

寒いのだろうか。
少し頬を赤くしたあの男が、私を見てニッと笑った。