「小枝子は人を恨む事を知らないらしいからな」

黒崎がそれに同調するように頷いた。

「そうね。私だったら絶対に許さなかったと思うわ。自分でも、どうしてあんな酷い事が言えたのか、理解できないわ」

と言いながら、倫子は解っていた。あれは小枝子への嫉妬からだという事を。
亮介への想いが破れた時、小枝子だけが幸せになるのが許せなかったからだ。

たぶん小枝子はそれが解っていて、恨むよりも同情してくれたのだろう。
最初は同情された事に腹を立てたりもしたが、今はそんな逆恨みはしていない。
恨みは何も生み出さないという事に、倫子は気付き初めていた。

「私を解雇せず、それどころか新しい会社を私に任せてくれたのは、小枝子さんのおかげなんでしょ?」