あ、確かにそうかも、と倫子は思った。

なぜなら、倫子自身、なぜ亮介を好きになったのかと聞かれたら、たぶん答えに困るから。
気付いたら、好きになっていた、という事だったのだから。

「ああ、やってらんない。時間が気になるようだから、私は行くわね」

倫子は何かを吹っ切るように、スクッと立ち上がった。

「これから大学の仲間で集まるんだけど、亮も少し顔を出す?」

「いや、悪いけど…」

「可愛い奥さんが待ってるもんね?」

「すまない。みんなによろしく言っておいてくれ」

「はいはい。じゃあね、黒崎さんも」

「お疲れ様でした」

今は亮介の秘書兼運転手となった黒崎は、倫子にうやうやしく頭を下げた。

「ああ、倫子」

腰を振り、ドアに向かう倫子を亮介が呼び止めた。