黒塗りの車に近付いても、ガラスが黒くて中は見えなかった。

「どうぞ」と黒崎さんが開けた後部座席のドアから体を入れかけた瞬間、甘ったるい香水の臭いが私の鼻をついた。

これはたぶん、時々亮介さんから発する香水の臭いと同じもの。という事は…

車に乗っていたのは、栗色で緩くウェーブの掛かった長い髪の、化粧の濃い女性だった。
グレーでタイトなミニスカートから伸びる、組んだ両足がやけに艶めかしい。

「はじめまして、藤堂倫子と申します」

私がその隣に乗り込み、黒崎さんがドアを閉めると、私が思った通り、その女性は藤堂倫子と名乗った。

「楠本小枝子です」

「ごめんなさいね。急に、しかも遅くに。亮がいないから、やる事が多くって…」