マスターの息が私の顔に掛かった瞬間、亮介さんの顔が頭に浮かび、「イヤ!」と私はマスターを拒んでしまった。

「小枝ちゃん…」

「ごめんなさい。まだ、心の準備が…」

「それはずっと出来ないと思うよ」

「え?」

「今、小枝ちゃんは北島さんを思ったんだろ?」

「それは…」

「愛されるだけじゃダメだと思うよ。愛する人と結ばれないと、人は幸せにはなれないと思う」

「マスター……」

「もし私と結婚したら、小枝ちゃんはきっと後悔するよ。そんな小枝ちゃんを私は見たくないし、幸せどころか不幸になると思う。暖かい家庭は、愛する人と築けばいいじゃないか」