言っちゃった…

言ったそばから少し後悔の気持ちが起きたけど、今夜の晩ご飯の団欒を思い出し、あれこそが私が求める幸せなんだと、私は自分に言い聞かせた。

「小枝ちゃん…」

「はい?」

マスターは探るような目で、私を見ている。私はその視線に堪えられずに、ビールが入ったコップに視線を落とした。

「そういう事、軽はずみに言うもんじゃないよ」

「軽はずみじゃありません。ちゃんと考えたんです」

「本気で言ってるのかい?」

「ほ、本気です」

「北島さんと喧嘩をして、ヤケになってるんじゃないのかい?」

「違います」

「分かった」

ガタンと音がし、マスターは立ち上がって私の横へ来た。

「小枝ちゃん、顔を上げて」

「マスター?」

「キスするよ」

「え?」

屈んだマスターの顔が、徐々に私に近付いて来る。私はギュッと目を閉じた。