男はネクタイをして、グレー系のスーツを着た。その姿はビシッと決まっていて、癪に障るけど格好いいなあと思った。

「じゃあな」

男は私を上から見下ろし、ニコッと笑った。悔しいけど、素敵な笑顔だった。

「何か言ってくれよ」

「さっさと出て行って!」

すると男はおどけた顔をし、その顔が私の顔にスーッと近付いて来た。

キスされる、と思って布団を顔まで上げたら、チュッと音がして、オデコに何か柔らかいものが触れた。

「縁があったらまた会おう」

「縁なんかないわ!」

名も知らない男は、苦笑いを浮かべながら部屋を出て行き、ガチャッとドアが閉まる音がした。