「見られていたのは恥ずかしいけど、少しでも知ってもらっていたなら丁度いいかもしれない。
……よし、今言おう」
「も、もしかして露木さん……」
頭を掻いていた手を下ろすと意を決したように呟き、顔を引き締めて私に向き直った。
隣にいる母は俯いたけど、その頬は赤く染まっている。
その様子だけで何を言われるのか、なんとなく予想がついてしまう。
病院の玄関近くで止まるタクシーの音とか、子供の泣き声と心配する親の声とか……
いろんな音が耳に届くけど、今一番響いているのは心臓の音。
「実雨ちゃん。
お母さんをもらっても……いいかな?」
遠慮がちな態度と情熱が溢れ出している言葉。
自分がプロポーズされているわけじゃないのに、こんなにドキドキするなんて。
母は露木さんの真剣な態度に胸がいっぱいになったのか、
口元を両手で押さえて涙をこらえているよう。

