私がある神様を思い返しているなんて、母は気付かず言葉を続ける。
「露木さんとは私の体調がいい時、廊下を歩いていたらたまにすれ違っていて……それから少しずつ話すようになったの。
調子が悪い時には、私の病室まで露木さんが会いに来てくれて……ね」
「あぁ、看護師さんの目を盗んでね」
「ちょっとしたスリルも楽しかったわね。バレてたみたいだけど」
肩を寄せて、二人ともいたずらっこのように笑い合った。
「露木さんは退院してからも私のお見舞いに来てくれていたの。でもまだ実雨は会ったことないわよね?」
「会ったことはないけど、一度だけ見かけたことはあったよ」
「そうなの?」
「母の病室を出る時です。優しそうな人だなぁって思ってました」
「恥ずかしいなぁ」
露木さんは目を細めて軽く頭を掻き、母は嬉しそうにそんな露木さんを見つめていた。
その目は、露木さんが病室を出る時に、母へ向けていた目と同じ色をしている。

