呆然とする私を置いて、露木さんという男性に歩み寄る母。
「露木さん、仕事は?そろそろ復帰するんでしょう?」
「明日からだよ。体も調子がいいんだ」
母は露木さんを心配そうに見つめ、それを温かな笑みで受け止める露木さん。
二人とも親しげな雰囲気を醸し出している。
「お、お母さん!その人……誰?」
「そんな怖い顔しないでよ、悪い人じゃないわ」
「そうじゃなくて、誰か聞いてるの!」
悪い人だなんて、思ってないよ。
露木さんが母の病室を出る時、扉が閉まる瞬間でさえ惜しむように向けられていた視線。
その視線の先に母がいたと思うと……悪い人だなんて、とてもじゃないけど思えない。
「この方は露木聡(つゆきさとし)さん。ちょっと前まで、ここで入院していたの」
「も、もしかして、この病院で知り合って……?」
「あら?実雨ってばいつの間に恋愛について鋭くなったの?」
鋭くも何も、さりげなく腕を組んでいる二人の様子を見ればわかる。
もし恋とか愛とか考えるようになったとしたら……たった一人、ううん、一匹の狐のせいだよ。

