それから2週間が経ち、いよいよ退院の日となった。
「お母さん、忘れ物はない?もう、荷物は私が持つから」
「大丈夫なのに……あっ」
血色は取り戻したと言え、まだまだ細い母の腕。
大きな荷物がぶらさがるには頼りない。
私が母から半ば強引に荷物を奪うと、母は「もう病人じゃないのに」と頬をふくらませながらも「ありがとう」と呟いた。
病院の先生や看護師さん達に挨拶を済ませ、病院を出た時……
「清風さん!」
「え?」
以前、病室の前で見かけた優しそうな男性がいた。
短髪の髪に、丸い眼鏡の奥にある瞳を細めながら、母に向かって右手を掲げている。
「露木さん!」
「は!?」
その男性の呼びかけに母も手を振って答える。
……何これ、どういうこと?

