狐に嫁入り!?



新しい病室はまだ慣れない。

棟は一緒だけど階数と部屋数も違うため、間取りが少し変わる。


「えぇっと……休憩コーナーを曲がって2部屋目の……あれ?」


私が母の病室だと思っていたところから、中年の男性が出てきた。

別れを惜しむように、病室の扉が閉まりきる最後までにこやかに手を振り続けていた。


やがて扉が閉まると、男性は私とは逆方向へ去って行く。


「誰だったんだろう?」


首を傾げながら病室の前へ立ったが、答えは簡単だった。


「そっか。大部屋だから同じ部屋にいる患者さんのお見舞いか」


病室にいる患者さんの名前が書かれたプレートが4枚ある。

今まで個室で、母の病室へ立ち入るのは自分と病院の先生達だけだったから、他の人を気にしたことがなかった。


「優しそうな人だったな」


今度鉢合せた時はちゃんと挨拶しなくちゃ。



この時はそう思うだけで気にも留めていなかった――――。