それからウタクは皐月さんを部屋から外すと別の家来に婚姻の儀の紙を用意させた。
「これから婚姻の儀を行う」
家来が去って、二人きりになった部屋。
ウタクの声が妙に近くに感じる。
私が「はい」とかしこまった返事をすると、ウタクは机の前に片膝立てて座った。
硯で墨を擦る。
高校に入ってからは音楽を選択していたため忘れていた墨の匂い。
なんでだろう……すごく懐かしい。
昔を、人間界を、帰りたい場所を……思い出させる……。
「……お前を悪いようにはせん」
「……うん」
ウタク……。
私がしょげた顔してたからか、
「もっと優しくしてやろう」と宣言した通り、
私に向けるウタクの視線は優しかった。

