陰陽(教)師

嵩史がそこで足をとめたのは、この里山で久しぶりに人の姿を見たせいだった。

里山には食用の木の実や山菜、キノコがなるため、行楽の季節にはそれらを目当てに多くの人が訪れる。

しかし年が明けてからはそういった人の姿はほとんど見られなかった。

嵩史はそこにいた人物を観察した。

服装は茶色の着古したジャケットにニッカボッカーとニッカーホース。

背中には大きなリュックサックを背負い、山高帽をかぶっている。

長くたくわえた口ヒゲは真っ白で、年齢は70歳ぐらいに見えた。

老人は地面の枯れ木や枯れ葉をひっくり返しては、手にした虫眼鏡で何かを見ている。

嵩史は時計を見た。

今から寄り道して、それから昼食を済ませるとなると、午後の授業に食い込む可能性は大。

しかし嵩史はもう、虫眼鏡の老人に興味津津であった。

こういう時、嵩史は、自分が猫だなと、つくづく思う。

彼は一本道を外れると老人のもとへ向かった。