陰陽(教)師

「なぜ分かった?」

「自分にも、願掛けをしていましたから」

屋上に一瞬、静けさが舞い降りた。

「…それって、おかしいよね?」

鈴子が口を開いた。

「だって要石は地震を鎮めるためのものでしょ。子宝祈願の対象じゃないよね?」

「もちろん」

晴明はうなずいた。

「じゃあ、なぜ…」

「単純に言うと、その夫婦は要石が何なのか知らなかったんだ」

「はー…」

大吾の言葉に、鈴子は釈然としない様子で首をかしげた。

「神社には、要石の由来を示す立て札もなかったからな。わからなくても仕方ない」

「まー、要石なんて日常会話じゃ出てこないもんね」

「それに夫婦は子供が欲しいと切に願っていた。藁(わら)にも石にもすがりたい気持ちだったんだろう」

「お前はその姿に心を打たれたワケか」

晴明がそう訊くと、大吾はうなずいた。

「夫婦に何とか子宝を授けてやりたい。そう思いましたが、自分にそんな力はありません」