陰陽(教)師

本人がそう言うのならと考えたのだろう。

「で、その要石がなぜ人間社会に来た?」

「資料に自分の経歴は書いてありませんか」

「ない」

晴明はきっぱりと言い切った。

ファイルは閉じている。

仮にファイルにあったとしても、本人の口から聞きたい。

そんな風であった。

「自分はここ杉沢市で、長年要石として過ごしてきました」

大吾は語り出した。

その外見にそぐわぬ、穏やかな語り口調だった。

「霊石として命を得て、意思が芽生えた後も、ただ淡々と己の役目をこなしていました」

その役目がいかなる内容か、大吾は語らなかったが、晴明もまた訊こうとはしなかった。

聞きたいのはあくまでも人間社会に入った理由だけらしかった。

「要石としての役目を終え、幾年かの時を過ごしたある日、とある夫婦に出会いました」

その夫婦は大吾…いや要石がある神社を、毎日のように訪れていた。

「子供が欲しくて、願掛けに来ていたのです」