陰陽(教)師

嵩史がオウム返しに訊いた。

『ひよふすべよ約束せしを忘るるな川だち男うぢすがはら』

善吉曰く、短冊にはそう書いてあるという。

「江戸時代に書かれた、【耳嚢】という本に、河童除けの歌として載っているんじゃ」

【耳嚢】(みみぶくろ)は江戸町奉行をつとめた根岸鎮衛が記した随筆集である。

総数1000話、全10巻からなる大著で、妖怪に関する話が各巻に見られる。

河童除けの歌が載っているのは巻之七。

「この歌を身につけているから、川太郎は明菜ちゃんに触れないんだね」

「尻子玉を抜かれたらおしまいだからな」

「さすが先生☆」

鈴子は瞳を輝かせながら晴明を見た。

「要は何故この歌のことを知っていた?」

「【耳嚢】は岩波文庫で読みました」

晴明の問いかけに、大吾は淡々と答えた。

「読書家だな、要は」

晴明が感心した様子で言った。

「パワーリフティングの大会で、遠征する事が多いので」

電車やバスの中で読むのだという。