なによ、これ。
怒ってみせても、胸に怒りは灯らない。
ベッドの上で、あんなに優しく、だけど狂おしい程求められたのは初めてだった。
そう、初めて体を重ねたのに、ぴたりと欠けたピースのように馴染んで。
『眞琴』
と呼ばれる度、
『愛してる』
と言われているような錯覚にさえ陥りそうになって……
…駄目だ。
昨夜の事を思い出すだけで、動悸が激しくなって苦しくなる。切なさで心が折れる。
あの人はズルイ。
あんな優しい顔で、大事にそう、大事に抱くから、勘違い、してしまうじゃないか。
甘く名前を呼ぶ声に脳さえ麻痺してしまう。そのくせ、あの天使のような笑顔で奥さんを忘れられないと云う。

