「…っ?」
スグルさんが初めてその瞳に明らかな動揺を映した。
信じてもらえないだろうな、酔っ払いの戯れ事だと。だけど、それでいいや。あたしとこの人の人生は交差しない。
スグルさんが何か言いかける前にあたしが口を開いた。
「結婚してたんです。しかも別れてるんです。だけど全く記憶に無いんですよ」
有り得ないでしょ、と付け足して。
スグルさんの表情が何故か苦しそうに歪んだ。次に出てくる言葉が何なのか、どういう意味か問い掛けるのかと思えば、
「忘れたいほど────嫌だった?」
予想外に、彼から漏れたのはあたしが一番知りたい事だったりする。

