『今すぐうちに来いよ。』


それは、5月も終わりかけたある日こと、本当に久しぶりに電話をしてきたタカが放った、たった一言だった。


てゆーか、生きていたのか。


心配してやったこっちの身にもなってほしいものだけど、でもそれもまた余計なお世話なのかもしれない。


こんな夜も遅い時間に、こっちの予定を聞くこともなくて、傲慢だとか自己中だとか無遠慮だとか、罵倒すべき言葉を選べばキリがないけれど。



「まぁ、暇だしね。」


なんて、理由はすぐに見つけ出した。


こんなことでタクシーを呼び付けるあたしもどうかと思うけど、でも歩いて行くほどタフじゃないから。


と、いうか、運転手さんとは何度も会っているので、すでに仲良しだから良いけれど。


タカに会いたかったのかどうなのかは、よくわからない。


だってあのまま終わりにすることほど簡単なことはなかったのに、なのに電話を受けた瞬間、確かに胸が鳴った自分がいたから。


忘れるべきだと思っていたのにね。



「雨が降りそうですね。」


運転手がぽつりと呟いた。


言われて視線を移した窓の外には、星は見られず、本物の漆黒が広がっている。



「そういえば昔、雨が降るのは神様が泣いてるからだって母親に教えられましたよ。」


ルームミラー越しに目が合い、思わず笑ってしまった。



「それはありえないよ。
だって神様はいつも、滑稽な人間を空の上から見下して、嘲笑ってるんだから。」


あたしの言葉に、彼は困ったような顔をした。


どうして人は、目に見えない存在のものを美化し、崇拝したがるのだろうか。