梢と別れ、乃愛と電話をし終えた後で、気付けばふらりと街までやってきていた。


今日も喧騒にまみれた中で、行き交う人々はみな、足早に通り過ぎる。


少し前まではここが溜まり場みたいだったあたし達なはずなのに、今はもう、それぞれの道を決め、歩き出そうとしているなんてね。


パンツを売って、出会い系で男達と知り合って、媚びれば何でも奢ってもらえて、無敵なんだと思っていた、あの頃。


でも今はもう、それすら遠い昔のことのように感じてしまう。



「…乃愛がママ、か。」


呟いた台詞は虚しく消える。


もしもそれがあたしだったなら、どうしていただろう。


タカの子だからといって、産むという決断を下す自信がなかった。


春樹だって父親になるという選択肢を選ばなかったし、やっぱりあたし達姉弟には、そんな資格は今もないから。


なんて、もうそろそろ帰らなければならない時間だ。


こんな場所にいたってちっとも意味はなく、余計に憂鬱さばかりが増していく。


だから息を吐き、顔を上げた。



「…あっ…」


その時、見てしまったもの。


向こうの通りにはタカがいて、知らない男も一緒だ。


いや、正確に言えば、彼は中年のおじさんの胸ぐらを掴みあげていて、一方的に何かを怒鳴っていた。


辺りを通る人々は関わらないようにとそれを見ることもなく避け、誰も異を唱えようとはしない。


こんな街ではよくある光景。


けれどそれがタカの仕事。