2000年、8月
8年前の夏祭り

「ほら、迷子になるぞ」

「うん」

ブッキラボウの口調とは裏腹に、優しく差し伸べられた手のひらをソッと握り返した。

慣れない下駄に小さな歩幅しか足を動かせない浴衣に、もう直ぐ始まる花火大会の会場に向けての人の波に呑まれそうになった。

拓海は、そんなあたしの様子をちゃんと分かってくれていたんだね。

でも、ゆっくりしか歩けないから色々な出店を見て歩く事が出来た。

キラキラした宝石のようなリンゴ飴、
1モナカに3匹ゲットしていた金魚すくい、
いつもより真剣な面持ちの射的。
……その他色々。

あたし達はこの祭り会場を目一杯楽しんだ。

そして、また小さな出店の一つの前に足を止めた。

「見て見て!
 ガラス細工だって~。実演してるよ」

「ぅわ、細けぇ。
 スゲエな」

「少し、見ようよ」

彼の手を強く引っ張り訴えかけた。

「しょうがねぇなぁ」

なんて、言いながらも優しい笑顔で良く見えるところ迄手を引いてくれた。

「おじさん、少し邪魔するな」

職人さんは、それには応えず黙々と作業を続けている。