「相良……紫苑……」 あたしを『姫』と呼んだ彼。 彼とは今まで何の接点もなかったのに。 高2になった今の今まで一度も。 廊下ですれ違ったことは何回かあるかな? そんな時、彼はいつだってたくさんの女の子たちに取り囲まれていた。 友達でもないし、知り合いでもないし、目を合わせたことすらない。 あたしと彼はその程度の関係。 それなのに、彼はあたしを『姫』と呼んだ。 彼があたしのことを知っていたってこと。 ただそれだけのことが、自分でも不思議なくらい嬉しかった。