「理子」 低くて優しい声。紫苑の唇から零れ落ちるあたしの名前。 ねぇ、紫苑。 あたし、『姫野理子』だって名乗ってないよ。 それでも知っていてくれたんだね。 ……何か、不思議。 ホント吸い込まれちゃいそう。 紫苑が彼女を作らないのも、こうやって流れに任せてキスしようとしているのも。 もうどうでもいい。 ただ、その唇が欲しくて。 今この時だけは、紫苑を一人占めできるから。 頭の後ろに感じる紫苑の手の平。 このまま、流されちゃいたい。