紫苑の唇まであと10センチくらい。 あとちょっと近付けば、唇が触れ合う距離。 お互いの息遣いがハッキリ分かる。 「あたし、姫って名前じゃないよ……」 紫苑に初めて『姫』って言われた時、すごく嬉しかった。 今まで何の接点もなかったあたしのことを知っていてくれたんだって。 だけどやっぱり、姫野は名字だから……。 紫苑との距離が縮まる度に、あたしはものすごく欲張りになる。