「キミが噂の『姫』?」
すると、男の子は口の端をクイッと上に持ち上げてそう言った。
茶色くって艶っぽい瞳。
人を寄せつけて離さないオーラ。
「……――来る……なら、連絡くらいしてよ」
唇が震えてうまくしゃべれない。
連絡してって言ったって、連絡のしようがなかったよね。
あたし達は……お互いの連絡先を知らなかったんだから……。
「ごめん」
「いつ……戻って来たの?」
「さっき」
「どうして……戻ってきたの?」
そう尋ねると、紫苑は足元に落としていた視線を持ち上げてあたしを真っ直ぐ見つめた。
その真剣な瞳に、胸が熱くなる。
「……――理子に会いたくて」
いつの間にかあたしの目の前まで来ていた紫苑はあたしの体をギュッと抱きしめた。