「ここを訪ねてくる女の子がいたら、これを渡しておいてくれって言われてね。大家の僕に頼まれても困るって何度も断ったんだが、しつこくて」
「……紫苑が……これを?」
「あぁ。それじゃあ、これで」
大家のおじさんはあたしに紙袋を渡すと、扉を閉めようとした。
「あ、あの……――!!」
それをあたしは寸前のところで食いとめた。
「なんだい?」
「どこに引っ越すか、聞いてませんか?」
「さぁ。でも、家賃が払えずに出ていった位だからねぇ……」
「え?」
「借金もあったみたいだから。取り立ての人も来てたみたいだしねぇ……」
おじさんはそう言うと、虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべた。