そんなあたしの気持ちなんて1ミリも知らない紫苑。 「姫、こっち向いて」 紫苑はあたしの顎をクイッと掴んで自分の方に向ける。 紫苑との距離は10センチもない。 視線は自然と茶色い瞳から形のいい鼻、そして薄い唇に下がる。 気持ちを抑える為に、紫苑との間に壁を作らなきゃいけないのに。 それなのに壁を作る途中で、あたしはそれをすぐに投げ出す。 その壁は、自分自身を守る壁でもあるのに。 その壁を作らずにいれば、傷付くのは自分自身なのに。