男は伊藤君から私達の方へ顔を向けた。







「えー、こんばんは。
皆さん、十年ぶりだけど…覚えていますか」







誰も男の事を覚えていないのか、誰も反応がなかった。







男はため息をした。











「悲しいな。『ヘブン』の成長と共に俺の記憶もどこかへ行ったらしいな」









冗談を言っているのだろうけど、それでも誰も反応しない。
























「俺だよ。山本だよ。山本タクヤだ」


















山本君の言葉を聞いた瞬間、何人かが声を出した。












「山本…タクヤ…。確か…途中で転校した奴だよな」



「確かに…」



「いいや、事件に巻き込まれたって噂もあったぞ」











私は『C』と繋がりがあったため、山本君が旅をしていたことは知っていた。







けれども本人に会うのは皆と同じ十年ぶりだった。












「皆…、今日は伊藤の誘いがあってここに来れた。
このクラス会は伊藤が開催して、皆が来たことで成り立つものだ。それに神山夫妻の記念があってのものだ。
こうして、皆と会えてうれしい。
今夜は楽しいひと時を過ごしてほしい。
まるで現実の時間の…」









伊藤君が無理やりマイクを奪い、景品を山本君に渡して壇上から降ろした。









「えー、今のことは忘れてください。
それでは続きをしましょう」










伊藤君はルーレットを回し始めた。









山本君は皆に囲まれていた。









皆からの不審感が消えたからだった。