それから、私は充実した三日間を過ごした。


この世界にいるのも残りわずかだった。


休日の間に、癌でなくなった母親の墓を回ったり、別れた父親に挨拶をした。


十年以上も会っていないのに、一目見ただけで私だと気付いてくれたことは嬉しかった。


今までお世話になった人に挨拶しに行った。


友達や仕事の関係者、それに先生………










ほとんどの人は現実世界へ行く人達だ。


でも、容姿が変わるだけではなく、思いでも記憶だけになってしまう。


だから、思い出を残すためにも会いに行ったのかもしれない。










予定日になり、私は家族で施設に向かった。


施設は今も使われている。


訓練は今まで通りに行われている。


ほとんどの人は知らないだろう。


今日、選抜部隊が現実世界に行くことを………




「それじゃあ、行ってくるね」


「うん…」




私は家族と別れた。


選抜部隊と共に『選択の石』に向かい、夫と合流するから、最後の別れではなかったからだ。










教室に着くと、まだ半数の人しかいない。


教室にはアカネがいた。




「アカネ」




私はアカネに話しかけた。




「もうすぐ時間なのにまだ半分ぐらいしか来ていないね」




時計を見たが、集まる予定時間十分前なのに半数しかいないのに疑問を感じたから聞いた。




「あのあと、選抜部隊から抜ける人が何人もいたのよ。
困ったものよ。
根性がないわ」




アカネは冗談交じりで話した。


怒ってはいない。


むしろ、当り前のように話していた。




「でも、あの訓練をしても抜けない人達なら、きっと現実世界でもやっていけるわ」


「そうよ」




私はアカネの意見には賛成した。


あれほどの過酷な状況を耐えたのだ。


あれ以上のことがあっても耐えられると思えたからだ。