「ありがとう。その気持ちでも嬉しいわ。
旅をしていたってことは…あなたは観察者になれたの」








「ええ、俺は世界を旅しました。
そして、これからも…」








「よかったわ。
私は突然転校して心配したわ。
当時は『C』として活動して何かの事件に巻き込まれたとクラスの皆も話していたわ。
学校内でも噂が流れてたわよ。
でも、生きていてよかった」









「ありがとうございます。
俺は先生がくれた陸上部での経験を生かして今では長旅に耐えられる程の体力をつけることができました」










「そう…私はこんなにも優秀な生徒を持てて幸せだったわ」







「先生はこれからも教師を続けて行くんですか」










「いいえ、続けないわ。
もう辞めたわ。
これからは自分の時間を大切にするわ」













「そうですか。
先生も傍観者から主役になれたんですね」













「ええ。私は生徒達にきっかけを与えて来たわ。
でも、ある時気づいたの、傍観者ではなく、自分も進まないといけないことに…。
それから私は結婚をきっかけに傍観者も卒業したわ。
これからは物語を受け継がせていくわ」















「きっかけ…そうだ。
よかったら俺の景品を貰ってくれませんか。
俺は世界一周旅行なんていりませんから…」












山本君はさっきビンゴゲームで当たった景品をポケットから出した。










そして、先生に渡した。
















「本当にいいの。こんな貴重なもの」












「いいんです。俺はこの十年で全ての国を回りましたから」









「ありがとう」














私は二人の照れくさそうに会話している姿を眺めていた。