「アイド、私の言いたいのはあれを止めて…」




アイドは立ちあがった。


アイドの身体から煙が出た。


傷が治っていく。


アイドは歩きだし、アカネの方へ向かった。


アカネはアイドに気付いた。




「止めて…お願い」




アカネの横を何も言わずに通り過ぎた。


崩れていない塀の上に移動した。


アイドは私達に背中を見せた。


肩甲骨から黒い翼が出た。


翼を羽ばたかせ、周囲に大きな風が起きた。


誰もアイドに攻撃をしなかった。


いいや…できなかった。


攻撃すれば、落下が加速する恐れがあるためだろう。




「アイドーーー」




私は叫んだ。


アイドは宙に舞い、私達の方を見た。


しばらく、私達を眺めてから崩壊したビルの方へ向かって行った。






周囲は騒然としていた。


緊急事態だった。


止めることも…破壊することもできない状況で町の崩壊を防ぐ方法がない。


一般人を逃がすまでの時間もない。


ただ、半球体の物体が地面に着くのを見ていることしかできない。




ピー…ピー…




アカネの持つ携帯が鳴った。


アカネは出た。




「もしもし、ヨシト」




静まった状況でアカネの話声が響いた。