きつく抱きしめられてた腕が解かれる。

そしてわたしの肩に手を置いた彼が、顔を覗きこんできて言ったんだ。


「オレの彼女になって」


たとえ本心じゃなくても、その場だけのウソだとしても。うれしかったの。

うれしくて胸がいっぱいになって倒れてしまいそうなくらいだった。

だけど。

彼の目を見てゆっくりと首を横に振った。そしてわたしの肩を掴む手をそっとはがして、立ちあがったの。

言葉にはできなかった。

ただ涙をこらえて病室をあとにした。

わたしの名を叫ぶ彼の声も、呼び止める彼のお母さんの声にも振り返らず、走って病院をでたんだ。