[side Kai]




ドア一枚からして高そうな店。

フランス語で書かれた店名を確認してから、そのぶ厚い扉を右手で押し開いた。

中へ足を踏み入れたオレに、すぐさま声をかけてきたMaitre(メートル)。名前を告げると奥へ案内された。

本当は来たくなんてなかった。

だけど、会わなくたっていいと頑なに拒んだオレに、キョウコちゃんは頭を下げたんだ。

『カイちゃんはきっと3人で暮らすのは嫌がるって思ってた』


言いながら涙を浮かべて、
『でも会って話を聞いてほしいの』
と言った。


だからこれは、オレなりのケジメのつもり。

今日が終われば、もう顔を合わせることはないだろう。