「お前の親に挨拶しとかねーとな」

「挨拶?『娘さんを下さい』って?」

「アホか、いらねーよお前なんて。またどっかのバカが暴れて風邪菌振り撒かねーように、治るまで監禁しといてくれって頼むんだよ」

「せんせ」

「なんだよ」

「いい」

「あん?」

「……今日、うち誰もいないから」



今日……っていうか、いつも、いない。


いない、だれも。



「あは……うち、みんな忙しいから!お父さんもお姉ちゃんも帰ってくるの夜遅いんだ!」


慌てて笑顔を作って先生を見上げたら、先生は目を細めて私を見下ろしていた。


「大丈夫だよ!治るまでちゃんと大人しくしてるから!心配しないで!」

「……」

「自分でネギも巻くしコンニャクも乗っけるから!だから大丈夫!ねっ?」

「……」



なんで何も言わないの、先生。



「……無理、すんなよ」



ようやく開いた先生の口から零れたのは、消え入るような声だった。


具合が悪い私より、その時の先生の方が、顔色が悪く見えたのは気のせいだったのかな?


「してないよ、無理なんて」


私が笑ったら、先生は黙って頷いた。