「いい加減にしろ!」
先生、凄く怖い顔。
そんなに怒らなくてもいいのに。
私はただ、もう少しだけ先生と一緒にいたいだけなのに。
「……」
先生は私の口から手を離すと、私の手からスーツを引き離した。
私を包んでいた先生の匂いが遠くなる。
スーツに腕を通しながら、長い溜め息をついている先生の横顔を見上げたら、眉間には深いシワが刻まれていた。
先生に怒られるのは慣れっこだけど、こんな風に本気で怒られるのはちょっと、苦手だ。
「……ごめんなさい」
そう小さく謝って俯いたら、おでこに感じた温かい骨張った感触。
「ほらみろ、騒ぐからまた熱上がっちまったじゃねーか」
おでこに当てられた先生の手。
泣きたくなるほど優しい体温。
「……そんなに俺んとこにいたいなら、その風邪治してから来い」
「え……?」
「二人がいいっつーなら、放課後教科書持って来いよ。補習ならいつでもしてやらァ……だから」
「……とりあえず、今日は帰ってゆっくり休め」 いつものような張りのある鋭い声ではなくて、優しくて柔らかい声。
耳に滑り込んだその声が、私の胸の奥をじり、と焦がす。
「……はい」
私が頷いたのを確認すると、先生は少しだけ口の端を緩めた。

