今まで、どれだけ傷付いてきたんだろうか。
今まで、どれだけの痛みを抱えて育ってきたのだろうか。
ある程度裕福で、安定した家庭で育った俺には皆目見当もつかないくらいの苦しみを味わってきたんだろう。
なのに……いつもにこにこ笑いやがって。
疎ましいと感じていたあいつの明るさが、今ではあまりに痛々しく、いじらしく感じられる。
きっと、心の傷を隠す為に、必要以上に明るく振る舞うようになったんだと思う。
「新しいお母さんに好きになってもらえるように、いつも笑って、いい子でいようって思ったんだけど……だめだったんだ」 そう言って、また悲しく笑うあいつを見たら、胸がきつく締め付けられて、心臓をぎゅっと握り潰された。
「だから、家にはあんまり帰りたくない」
そう呟いたあいつの華奢で小さい体を、いつの間にか、俺は優しく抱き締めていた。
腕の中で、すんすんと声を殺して泣いていた結城。
そんなあいつを見て、安堵する自分がいた。
無理な笑顔を見せられるより、素直に泣かれた方が、ずっとずっと安心する。
俺の胸にすがるあいつを、護ってやりたいと思った。
あいつにとって、俺が唯一の泣ける場所になってやりたいと、そう思った。
……いや。
泣かせない。
泣かせたくない。
あいつを笑顔にしてやりたい。無理な作り笑いなんかじゃなくて。
俺は……。
あいつを、幸せにしてやりたいと……あの日、心からそう思った。

