大きな目から、大粒の涙をぽろぽろ溢して、「泣いてない!」なんて叫ばれたら、こっちは心配せずにはいられないに決まっている。
訊いて良いものだろうか。
一瞬戸惑ったが、泣いているあいつを見ていたら、躊躇ってなんかいられなくて。俺は意を決して尋ねた。
「泣いてないっ!もう慣れたの!寂しくなんか……ないっ……!」
何に、慣れちまったってんだ……お前は?
するとあいつは涙を流したまま、ぽつりぽつりと、啜り泣くような掠れた声で話し始めた。
弱々しい声で語られていく複雑な家庭環境。
俺は思わず言葉を失った。
いつでも明るいあいつが、人知れず密かに抱えていた底知れない闇に、ただただ愕然とした。
父の浮気、母の自殺、父の再婚、義母からの虐待……。死にたいと思いながら過ごしてきた日々。
その話が、あいつの口から語られていくのを聞いた時、ようやく俺の中でつじつまが合った。
いつだったか、風邪で倒れたあいつを車で家に送った時、家の人に挨拶をすると俺を、あいつは必死に咎めた。
「お父さんも、お姉ちゃんも、仕事で帰りが遅いから」 そう言って、下手くそな作り笑いを浮かべていた姿が思い出される。
……あいつには、母親がいない。
おまけに、父とは別居で、姉も夜遅くに帰宅するという。
家に帰れば独り。
だからあんなに家に帰るのを嫌がっていたんだ。
それに、密かに気になっていた体の傷。
俺の知る限りでは、少なくとも、首筋と左の二の腕に、大きな傷がある。
首は、何か刃物で切られたような跡。腕には、殴られたような跡。それらは恐らく、義母に刻まれたものだろう。

