ならばお好きにするがいい。

 
「先生、寝てた?」


かたり、静かにドアノブが回る音がして、ドアの間から、結城が顔を覗かせた。


少し開いたドアの隙間から、どうしようもなく食欲をそそる匂いが入り込んできて、思わず唾を飲み込んだ。


俺がゆっくり体を起こすと、少し安心したような表情を浮かべた結城。


運んだ料理を嬉しそうにサイドテーブルに並べる小さな後ろ姿に、「形にはなってんだな」なんてからかいの言葉を投げてみたら、「爆発しますよ」なんて頬を膨らませてわざと怒った表情を見せる。


そんなところも可愛い、だなんて思っていない……思ってはいけない。


粥にスプーンを差し込んで、それをいざ口に運ぼうとした瞬間、結城に止められた。


お預けをくらった空腹の俺が不満を口にすると、結城は俺の手からスプーンを優しく奪い取り、それからそれで粥をすくって俺に向けた。


そして


「先生、あ~ん」


なんて言うもんだから、思わず吹き出した。


アホか、と口を開いたのが失敗で、結城は開いた俺の口に素早くスプーンを差し込んだ。


自分の意思ではないとはいえ、食べさせられたということに自己嫌悪。しかしそれも一瞬で、次の瞬間、俺の意識は完全に舌の上に集中していた。


空腹のおかげも相まって、あの卵粥は、この世のものとは思えないほど美味いと思った。


味にも驚いたが、まずは何よりアイツが料理出来るってことに驚いた。


バカでドジの代名詞だとばかり思っていたのに、あんな意外な特技を披露されたら、いやでも見直しちまうだろ。


素直にうまいと褒めてやれば、大きな目をきらきら揺らして、どこまでも嬉しそうな顔をする。


そういう時に、心臓をぎゅっと握り潰されたような、胸の息苦しさを感じるんだ。