綺麗に空っぽになったお皿を前にして、財布からお金を取り出そうとした私のおでこを、先生の長い指が軽く弾いた。
伝票を持って立ち上がった先生は、私に店の外で待っているように促した。
言われた通り店を出て、外で待っていると、会計を済ませた先生が出てきた。
「先生、お金……」
財布を手にしたまま駆け寄ると、先生は呆れたようにわざとらしく溜め息をついた。
「いらねーよ」
「でも……っ」
「うるせーなあ」
ぐい、腕を掴まれて、優しく引き寄せられた。
コツン、先生のおでこが私のおでこに重なって。視界いっぱいに先生の顔。
背伸びをすれば唇が重なる距離。
思わず息を呑む。
「……貸す」
「へ?」
「出世払い。将来お前が稼ぐようになったら返せ、いいな?」
嬉しかった。
“将来”って言葉が、どうしようもなく嬉しかった。
これから先も、ずっとずっと隣にいてもいいって言われた気がして。
「うん……!なんだってごちそうするから!」
そう私が大きく頷くと、先生は優しく笑って、私の頭にぽん、と大きな手を置いた。
「言ったな?じゃあでっかいフカヒレの姿煮でも期待してるぜ」
「任せて下さい!先生のためならでっかい鮫捕まえてヒレ干すとこから頑張ります!中国に渡って中華料理学んできます!」
「いや別にそこまでしなくていい」

