ならばお好きにするがいい。

 
それから、少し離れた芝生の上に並んで腰をおろした。


ヒマワリ畑を眺めながら、先生は自分の小さい頃の話を聞かせてくれた。


小学生の時は悪戯大好きなヤンチャな男の子で、大人しくさせるために、先生のお父さんが先生に野球をやらせたこと。
中学生になってからは、野球に明け暮れて他のことには一切目もくれなかったこと。
そのせいで高校受験を失敗したこと。
高校に入ってからは、中学での教訓を生かして、野球も勉強も頑張ったこと。
プロ野球からスカウトもあったけど、高校受験の屈辱を晴らしたくて、大学受験に挑戦したこと。
そして見事、難関大学に合格したこと……。


先生はそこまで楽しそうに話してくれた。


でも、それから先は、少し寂しそうに目を伏せて、ぽつり、ぽつり、吐き捨てるような話し方になった。


プロ野球のスカウトを蹴って、大学へ進学したことによって周りから向けられた嫉妬の眼差し。その一方で、学歴に釣られて寄ってくる人間も山ほど。それによって生じる人間関係の歪み。お金と学歴だけで回っている汚い大人社会。


「俺はそこに染まっちまった」 先生は苦虫を噛み潰したような表情で笑う。


「大人になるにつれて、段々心がひねくれていくもんだってのは本当みたいだ……。今の俺は、ガキの頃『こんな大人にはなりたくない』って思った大人になっちまってる」

「そんな……」

「やっぱり、大人にはなりたくねえな」


そう自虐的に鼻で笑うと、先生は物憂しげに遠くを見つめた。


その先生の横顔がなんだかとても悲しくて。なんて言葉をかけたら良いのか分からなくなった私は、黙って下を向いた。



「でも」

「でも?」


「お前と一緒にいると、なんだか……変わっていく気がする」



先生は私に視線を移すと、口元を緩めた。


綺麗すぎる微笑みに、どくりと波打つ心臓。体が一気に熱を上げる。



「ほんと不思議な奴だよ、お前は」



くしゃり、髪を掻き混ぜられれば、一緒に心も掻き乱される。