ならばお好きにするがいい。

 
遠近感が無くなりそうになるほど、空は青く、高く、真夏の陽射しが、爽やかな風に乗って降り注ぐ。


「ふーん……悪くねえな」


目の前に広がる真っ赤なサルビア畑を見渡しながら、先生はふ、と笑った。


先生のマンションから、車で30分くらい走ったところに、この植物園はある。市街地から離れた場所にあるせいか、訪れる人数は少ない。おまけに今日は夏祭りがあるから、余計に人影はまばらだった。


「ここ、私のお気に入りの場所なんですけど、基本的にお年寄りのお散歩スポットなので若者は滅多に来ませんよー」

「つまりお前はお年寄りってことか」


そんな先生の苦笑は無視して、私は先生を手招きした。


「先生、こっちこっち!」


サルビア畑を抜けると、その先は小さな森がこんもりとしている。


私は先生の腕を引いて、その森の中へ足を踏み入れた。


森の中は日が陰っていて、ひんやりとした空気の中に、緑の匂いが淡く溶けている。枝葉を透かして、銀色の木漏れ日がきらきらと揺れていた。そこかしこから聞こえる、小鳥の囀ずりに耳をすましながら、森の奥へ奥へと進んでいくと、ある時ぽっかり森が途切れる。


と、同時に、目の前に広がる黄色い海。


先生を見上げると、大きく見開いた目をぱちぱちと瞬いていた。



「先生、どう?すごいでしょ?」



いちめんの、ヒマワリ。



右も左も、とにかく見渡す限りびっしりと、何もかもを埋め尽くすように植えられているヒマワリ。



さわ、と風が吹いて、黄色い景色が柔らかく波打った。