「どこに行きたい?」
車のエンジンをかけながら先生が私に尋ねる。
エアコンがまだ効いていない車内は、ジリジリと蒸し暑い。汗で滲む指先でシートベルトを腰にまわしながら、私は素直に行きたい場所を口に出してみた。
「お祭りにいきたい」
今日は年に一度の大きな夏祭りが開かれる日で、本当は聡未と行くはずだった。でも、聡未に急用が入って一緒に行けなくなったから、今年は行くのを諦めてたんだ。
私の要望を聞いた先生は、目を細めて難しい顔をした。
「あんまり人のいない所に行かねぇか?」
そう言われて、思わず「あ」と声を漏らした。
そうだ……先生と二人でいるところを学校の誰かに見られたら、大問題になっちゃうんだ。
「ごめんなさい」
小さく謝った私の頭をぽんっと叩いて、先生はぎこちなく微笑んだ。
「じゃっ……じゃあ、植物園に行きたいな!」
取り繕って私がそう提案すると、先生はますます眉を寄せて、露骨に困ったような表情を浮かべた。
「植物園……」
「なんですかその顔」
「いや、お前がいいならいいけど」
先生はそう言いながら、いまいち乗り気ではなさそうな表情のまま、ハンドルを握った。

