「39度か……なかなか重症だな」
ベッドの上で息を荒げる小田切先生は、呼吸をすることも、寝ることさえも苦しそうで。このままじゃ死んじゃうんじゃないかって不安になる。
そんな狼狽する私に気付いた樫芝先生は、小さく笑って私の頭に手を置いた。
「だぁい丈夫だよ、そんなに心配しなくても。ただの夏風邪だから。薬飲めば治るでしょ」
「薬持ってくるわ」 そう言って、寝室を離れた樫芝だったけど、何分経っても戻ってこない。
不思議に思ってリビングを覗いてみると、樫芝先生は薬を手にしたまま首を傾げていた。
「樫芝先生?どうしたの?お薬は?」
「ん?あぁ……それがねー……」
樫芝先生は手に持っていた箱を私に手渡しながら、失態を誤魔化すかのようにわざと明るく笑った。
「解熱剤と間違えて便秘薬買ってきちゃった」
思わずズッコケる。
「便秘薬でも熱下がるかな……下がるといいな……下がるだろうな……下がるよな、よし」
「全然よしじゃないっ!下がるわけないっ!ていうかどう見間違えれば解熱剤が便秘薬になるんですか!」
「テヘッ」
「いやいやいやいや何!?テヘッて何!?可愛く舌だしても便秘薬が解熱剤になるとかないですからね!?」
とりあえず、樫芝先生へのお説教はまた後で。
今はとにかく風邪薬……!
「今から私がダッシュでお薬買ってきますから!樫芝先生は小田切先生のこと看てて下さい!」
「はぁい」
ショボンとした樫芝先生を残して、私は小田切先生の部屋を飛び出した。
そして薬局に向かう途中に、小さなスーパーを見つけた私は、ある一つの名案を思いついた。
「よしっ」
私はさっさと買い物を済ませると、もときた道を全力で駆け戻った。

