人には誰だって、秘密があるものだ。 心のなかに、誰にも話せない、いや、話したくない秘密が。 きっとその秘密は、口にだせば、春に降るなごり雪のように儚く消えていく。 口にした時点で、秘密は秘密ではなくなる。 そして心の中には、さっきまで居座っていた秘密の空間がぽっかりと空洞になって、そして、俺は俺でなくなるんだろう。 ――――人魚を見た事がある。 それが俺の、誰にも話せない秘密だ。