抱かれてない――――
はっきりとその質問の答えを返せばyes。
『恋人』と呼ぶの事がいまだ慣れないあたしに関谷、という男が常に頭を占める日常が出来て、早、一ヶ月。
大体、あたしも関谷も忙しい。いや、関谷は何だかんだで時間を作ってくれる。むしろ、仕事してんのか、と思える位。
長年の友人、祥子の話では、最近また新しい建築に関わっているみたいでストイックに仕事はこなしているらしいけど。あたしは、関谷の事を何も、知らない。
「高見ちゃん？」
ぼんやりしていたらしい意識を山都さんの柔らかい声が引き戻す。本当にこの人、声だけは完璧なのに。
「もう、失礼します」
あたしは席を立つ。山都さんは、それを見上げて
「じゃあ俺も帰ろかなー」
なんて言ってのける。
「山都さんが帰ったらここの女子社員殆ど帰りますよ、そんなおもしろ現象起こさないで下さいね」
あたしは義務的に言葉を綴った。
山都さんが例の如く綺麗な笑みを作ろうとした瞬間、何故か、そのかわりに眉を上げて視線を逸らせたのはあたしの背中の向こう側。
「…本気で痺れるよねー」
なんて呟いて掴めない笑顔で笑っただけ。
