「 …寒いに決まってんじゃん 」
「 ―― じゃあ、これ着ろ 」
車を駆る藤本に連れられて来たのは
東京湾のどこかと思われる
埠頭の倉庫
ここには机と椅子、
PCやベットまであって
業務用のサラダ油が入っていたらしき
銀色の一斗缶の中で
廃木材を燃料にした火が
パチパチ弾けながら、赤々と燃えている
俺はコートを脱いで、差し出したが
木箱に座って、
そっぽを向いているリルカは
それを受け取らない
「 …早くしろ トイレ行って来る 」
「 ……… 」
「 ―― じゃあ
私が借りちゃおっかな〜… 」
アキラがそう言った瞬間に
リルカは顔をあげて
引ったくる様に、コートを掴んだ
「 アキラさん、
宜しければ、僕の上着をどうぞ
それと、
毛布とコーヒー、持って来ましたよ 」
「 わあっ! ありがとう! 」
アキラは藤本に、上着の袖を通して貰い
湯気の立つコーヒーと、
どこから調達して来たのか
パンを何個か受け取っている
「 阿部先生も、毛布どうぞ 」
「 …俺は今、あんまり寒くないから
リルカに掛けてやってくれ 」
藤本は頷き、
膝に頭を下げ突っ伏すリルカの肩に
そっと毛布を掛けた
「 … リルカさん
少し落ち着いたら良いので
なぜ朝、走っていたのか、
お話して下さいませんか? 」