* * *

一言で言うとするならば、幸せな家庭だった。

父もいた。

母もいた。

兄弟姉妹はいなかったけど、それなりに幸せな家庭だった。

元気に働いて、家庭を守っていた父。

優しくて、父を支えていた母。

それが当たり前だったから、私は知らなかった。

壊れることを、知らなかった。

壊れることに、気づかなかった。


「――お父さん…」

それは、突然のことだった。

突然の悲劇だった。